土地家屋調査士としての働き方に正解はありません。
資格取得後に、土地家屋調査士事務所や測量会社に勤務する方もいれば、なかには事務所を独立開業する方もいます。
本記事では、土地家屋調査士は独立開業しやすいのかという疑問に答えるとともに、独立開業の流れや、開業時に押さえておきたいポイントなどを紹介します。
土地家屋調査士として独立開業したいとお考えの方は、ぜひ最後までご覧ください。
土地家屋調査士は独立開業しやすいのか?
土地家屋調査士は、独立開業しやすい職業です。
「土地家屋調査士試験」に合格したうえで、日本土地家屋調査士会連合会への登録と、土地家屋調査士会への入会を済ませれば、土地家屋調査士として独立開業できます。
ただし、土地家屋調査士の資格を取得した直後の独立開業はおすすめできません。
測量機器の使い方や、調査報告書をはじめとした書類の作り方、そして経営のノウハウなどは、実務を経験しなければ習得できないからです。
また、事業をスムーズに進めるには、仕事の依頼を獲得したり、業務でトラブルが生じた場合に相談できたりするような、人脈やコネクションを築くことも重要です。
このような理由から、土地家屋調査士事務所や建設会社などに数年間勤め、業務経験を積んだうえでの独立開業が望ましいとされています。
土地家屋調査士が独立開業するメリット・デメリット
土地家屋調査士として独立開業するのであれば、得られるメリットや、生じる可能性があるデメリットなどを把握しておかなければなりません。
事業を成功させるにも、以下で紹介する内容を押さえましょう。
独立開業するメリット
土地家屋調査士が独立開業する最大のメリットは、高収入を目指せる点です。
土地家屋調査士事務所や測量会社の社員として働く場合とは異なり、独立開業では、事業として得た収益が、そのまま個人の収入になります。
技術や知識を高めつつ、長期的かつ継続的に依頼を受注できれば、高収入を得られるでしょう。
また、独立開業では、個人の裁量で事業の方針を決められます。
営業時間や事務所の場所、ホームページのデザインなどはもちろんですが、測量作業や申請手続きにおける報酬額も、自由に決定できます。
ご自身が働きやすい環境下、ならびに条件下で業務を進められることは、独立開業ならではの特長です。
独立開業するデメリット
独立開業で成功するには、技術や知識だけではなく、案件を受注するための営業活動やコミュニケーション能力も求められます。
事業が成功すれば高収入を得られるものの、営業活動がうまくいかず、長期間案件が受注できなければ、収入がゼロになることも起こりえます。
独立開業は、個人事業主になるということなので、図面の作製や測量、登記手続きなどの作業にくわえ、広告運用や顧客対応なども、すべて1人で対応しなければなりません。
膨大な業務量をこなせず、案件の対応に手が回らなくなり、勤務が長時間にわたることも考えられます。
企業に勤める社員とは異なり、独立開業は、個人の実力が試される「実力主義」であるという点は覚えておかなければなりません。
したがって、収入や勤務時間などに安定性を求めている方は、独立開業ではなく、土地家屋調査士事務所や測量会社などに勤めたほうがよいかもしれません。
土地家屋調査士として独立開業するまでのステップ
土地家屋調査士として独立開業するまでのステップは、以下のとおりです。
ここでは、事務所や企業などで実務経験を積んだうえでの開業を前提とした、一連の流れを紹介します。
ステップ①土地家屋調査士試験の資格を取得する
土地家屋調査士として独立開業するには、まずは毎年実施されている「土地家屋調査士試験」に合格しなければなりません。
試験は、筆記と口述に分かれていますが、口述試験の合格率は非常に高いので、合格するには筆記試験に重きをおいた受験対策や勉強法が必要です。
ただし、出題範囲が広い難関資格なので、例年の合格率は8~9%程度と低めです。
短時間の学習では、合格はほぼ不可能なので、時間をかけて勉強しなければなりません。
こちらの記事では土地家屋調査士試験の難易度や合格率について詳しく解説しています。気になる方はぜひご覧ください。
土地家屋調査士は難易度の高い国家資格!合格点や基準点について解説
ステップ②実務経験を積む
独立開業する前に、実務を経験しておきたいとお考えの方は、土地家屋調査士事務所や建設会社などに勤め、知識や経験を積みましょう。
独立開業の条件に、実務経験の年数は指定されていませんが、資格を取得した方の多くは、2~3年程度、他社に勤めたのちに独立開業しています。
勤務先は、大きく「法人企業」と「個人事務所」に分かれており、それぞれ特徴が異なります。
「どちらに勤めればよい」という明確な答えはありません。
しかし、個人事務所では、図面の作製や測量などの業務を1人で担当するので、いち早くスキルを習得したいとお考えの方は個人事務所への就職を考えてみてはいかがでしょうか。
ステップ③独立開業する事務所・オフィスを決める
土地家屋調査士としての知識や技術を習得したら、独立開業する事務所・オフィスを選びます。
家賃だけではなく、アクセスのよさや建物の築年数なども確認したうえで、ご自身が希望する条件を満たす物件を選びましょう。
なお、自宅を事務所・オフィス代わりに使えば、初期費用やランニングコストを抑えられます。
ステップ④開業届あるいは事業開業報告書を提出する
独立開業する際は、「開業届」あるいは「事業開業報告書」を税務署に提出します。
どちらも提出の期日は開業日から1か月以内ですが、届出を出さない場合や、提出の期日を過ぎた場合でも、特に罰則はありません。
ただし、これらの届出を提出しないと「青色申告制度」を利用できません。
また、補助金や助成金などの給付金の申請や、屋号付き口座の開設もできないので、独立開業に向けて準備をスムーズに進めたいのであれば、提出することが望ましいです。
ステップ⑤測定器具や事務用品などを購入する
測定器具や、デスクワークに必要な事務用品などを購入すれば、開業の準備は完了です。
器具や用具は、必ずしも新品である必要はありません。
購入費用を抑えたいとお考えの方は、測量機器を中古で購入、あるいはリース契約を結んだり、既存の事務用品を活用したりすることも視野に入れてみてください。
土地家屋調査士として独立開業する際にかかる費用の目安
土地家屋調査士として独立開業する際にかかる費用の目安は、300万~400万円程度です。
ただし、事務所の家賃や、取りそろえる器具・機材の種類などによって金額は変動するので、あくまでも1つの目安としてお考えください。
独立開業時に必要な、器具や事務用品の準備にかかる費用の目安は以下のとおりです。
土地家屋調査士として独立開業する際に購入する器具や事務用品の費用の内訳
購入品 | 費用の目安 |
測量用のCADソフト | 100万~150万円程度 |
トータルステーション(測量機器) | 100万~150万円程度 |
測定器具(コンクリート杭、金属標、ハンマーなど) | 20万~30万円程度 |
事務用品(パソコン、デスク、実務ソフトなど) | 20万~30万円程度 |
その他消耗品(名刺、文房具など) | 10万~20万円程度 |
事務所の賃貸料や光熱費 | 10万~20万円程度 |
現場用の車両 | 50万~100万円程度 |
上記は新品の購入を前提とした内訳です。
中古で器具・機材を揃えたり、自宅を事務所にしたりすれば、さらに初期費用を抑えられます。
土地家屋調査士の独立開業を成功させるために押さえておきたいポイント
独立開業後に事業を成功させるには、経営を軌道にのせるための要点を押さえなければなりません。
以下で挙げるポイントを意識してみてください。
ポイント①人脈を広げる
独立開業では、能動的に動かなければ仕事を受注できません。
事業を安定して進められるかどうかは、個人の営業力やコミュニケーション能力、人脈の広さで決まります。
不動産会社や建設会社の担当者たちとのつながりがあれば、仕事を安定的に受注できるだけではなく、人手が足りないときに測量や現場作業などもサポートしてもらえます。
経営者同士の交流会への参加や、事務所の先輩や同僚たちとのこまめな情報交換を意識して、普段から多くの人と関わりましょう。
ポイント②適切な報酬額を設定する
報酬額を決める際に気をつけなければならないのが、相場を意識した料金設定です。
独立開業すると、測量作業や申請手続きなどの報酬額を自由に決められるので、つい「高い報酬額」を設定しがちです。
しかし、相場より高い料金を設定してしまうと依頼者から敬遠され、一方で相場よりも安い料金を設定すると、依頼を受けても利益につながりません。
安定的な受注を継続するには、適切な報酬額の設定が不可欠です。
独立する前に他社に勤務した経験があれば、作業内容にふさわしい料金体系を把握できるので、業務に見合った報酬額を設定しましょう。
なお、報酬額の目安は、日本土地家屋調査士会連合会のホームページ上でも確認できるので、あわせて確認してみてください。
土地家屋調査士として独立開業した場合における年収の目安
土地家屋調査士の年収は、能力や経験、就業形態などによって違いが出てきますが、平均年収で見ると約600万円前後です。
ただし、この数値はあくまでも目安なので、事務所を開業したばかりで年収が200万~300万円程度の方もいれば、1,000万円以上の年収を得ている方もいます。
土地家屋調査士が取得すると年収アップにつながる資格とは
土地家屋調査士の資格とは別に、不動産取引に関わる資格を取得すると、対応できる業務の範囲が広がり、年収アップにつながります。
たとえば、「ADR認定土地家屋調査士」という資格を取得すれば、不動産の所有者同士が筆界(土地の境界)をめぐるトラブルを起こした場合に、解決手続きの代理を務められます。
また、「司法書士」も不動産登記に携わる資格なので、この資格も同時に取得していると、対応業務の分野が広がり、より多くの顧客のニーズに応えられるでしょう。
これらの資格は、土地家屋調査士としての業務をスムーズに進めることにも関連するので、スキルや年収をアップさせたいとお考えの方は取得を視野に入れてみてください。
こちらの記事では、土地家屋調査士の収入事情に年収を上げるポイントを解説していますので合わせてご覧ください。
土地家屋調査士の平均年収はどれくらい?年齢別・エリア別に解説
土地家屋調査士が独立開業で成功するには技術だけではなく営業力も重要
いかがでしたでしょうか。
土地家屋調査士は、独立開業しやすい職業だとされています。
日本土地家屋調査士会連合会への登録と、土地家屋調査士会への入会を済ませれば、実務経験がなくても開業が可能です。
独立開業では、得た収益がそのまま給与に反映されるので、事業が軌道にのれば高収入を見込めます。
ただし、事業を成功させるためには技術や知識だけではなく、案件を受注する営業力や、人脈を築くコミュニケーション能力が必須であるという点は覚えておきましょう。
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